ぼくのふるさと

グリーンロードから見上げるリニモ高架。これが我が家末っ子のふるさとの景色。

およそ5年前。我が家は、はじめて家族全員での旅行に出かけた。帰省以外で、家族そろって県外に出ることは初めてのこと。年の離れた兄弟がみんな楽しめるように、ガイドブックをみながら、計画を立てるところから楽しく盛り上がっていた。
ところが、出発して数時間。車窓には見慣れない景色ばかり。目をキラキラさせている上の子たちとは対照的に、「旅行は、いつ着くの?」とどんどん不安げな表情になる末っ子。あのころはまだ、末っ子が「初めてのことがとても苦手」ということに家族のだれも気が付いておらず、すぐに機嫌も直るだろうと、そのまま計画通りに旅行を続けた。
 公園や新幹線を見るなど、末っ子が楽しむシーンもあった。しかし、2泊3日の旅行中、末っ子はほとんどの時間を緊張状態で過ごした。最終日には、もう、車から降りることも拒否した。
 末っ子以外は、大満足した初家族旅行。帰りの高速道路も、思い出話に花が咲き、元気いっぱいの上の子たち。「次はどこへ連れていかれるのか」と緊張している末っ子。
 車が、グリーンロードに入り、頭上にリニモが見えた時、末っ子が「ああ、やっとうちに帰ってきたね」と、一瞬で緊張状態から解放された声を出した。とてもほっとした表情。安堵のため息。
「この子のふるさとはこの景色なんだ」と強く思った。リニモが良く見えるスポットではなく、グリーンロードから見上げるリニモ。これが、末っ子のふるさとの景色。きっと、これからも。
 だから、この景色は、ずっと残したい。

古賀 敦晴